Comment lui dire

アラビアンコースト

『No.9-不滅の旋律-』 2018/12/23S @KAAT

あの…下書きのまま忘れてたんで…


年末と言えば第九、第九と言えば年末。
というわけで平成最後の1年も残り1週間を迎えようとしている天皇誕生日、大好きな横浜芸術劇場で吾郎さん主演の舞台、『No.9』を観てきたよ!!

吾郎さんを舞台で観るのは初めてでした。
というか基本的にストレートプレイにはあまり興味がないのでSMAPのメンバーの舞台も今まで殆ど行ったことがありませんでした。
そもそも吾郎さんのドラマもそんな見ないや
ドラマ自体殆ど見ない


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ベートーヴェンの半生を通して、彼が自分の中に鳴り響く音楽と向き合えるようになるまでのお話である。
ベートーヴェンは音楽の才能だけは天才的だ。だがそれ以外に関してはどうしようもないダメ男だった。偏屈で我儘で生きづらい性格をしている。二人の弟や、ウィーンの街で知り合った人たちを振り回しながら生きていく。そんな性格なのですぐに愛想を尽かされそうだと思いきや、それがそうでもない。彼の音楽には人を惹きつける運命的な魔力がある。彼の破天荒な人間性に苦しめられても、彼の才能を嫌いにはなれない。



劇中、興行に失敗してルイス(ベートーヴェン)が遺書らしきものを残して行方不明になるんだけれど、皆で必死に探したら彼は酒場でフランス兵たちと一緒に未完成の第九を歌っていたというシーンが出てくる。興行初日、客がフランス兵ばかりで馬鹿にされたので彼らを見返すためにやったことだった。この第九の合唱がストレートすぎるくらいガツンと心に響くのだ。素晴らしい音楽って人種や言葉の壁を超える力があって、そんな魔法のようなものをいとも簡単に創り出せるベートーヴェンはやはり天才なのだと思わせる良いエピソードだった。
すごくミュージカルにしたら面白そうな話だけど、台詞のみで構成される中で『音楽』として強調される第九を聴いたらこの作品はミュージカルじゃなくて良かったのだと思えた。


ベートーヴェンには様々な偏屈エピソードがあって、耳の状態が悪化していくうちに更に偏屈になっていく。そのひとつひとつのエピソードが決して重苦しくなりすぎずにテンポ良く場面が転換されるので3時間10分という長さを全く感じさせなかった。
彼の半生は波乱万丈で彼自身や彼を取り巻く周りの人々にとっても多くの苦難が待ち受けているけれど、それらが軽くなりすぎない程度にユーモアを交えて表現されているので苦しさを感じない。いい作品だよね。
心底ダメクズ男で、弟たちには辛く当たるし、甥へのスパルタ教育はかつて自分が嫌悪していた父親と全く同じ酷いものだし、音楽の才能以外に誇れる要素が何一つない人として表現されているベートーヴェンなんだけど、何故だか憎めないのは吾郎さんのキャラクターもあるのだと思う。吾郎さんのパブリックイメージって変人でマイペースだけど面白いこともできる人だと思うんだよね。それがベートーヴェンのイメージにピッタリとハマってて、彼の周りの人だけじゃなくて観客もついつい許してしまうというか。キャスティングの妙。

吾郎さんは今でこそ丸くなったけど(?)10代の頃はめちゃめちゃ偏屈だったらしく、ジェットコースターにスマ全員で乗るはずだったのにどうしても乗りたくなくて持っていた鏡を投げて割るほど拒否したんだよね。それで中居くんに殴られた。当時まだあまり売れていなかったので中居くんは「俺たちはこういうこともやってかなきゃいけないんだよ!」って激怒したけど、最後まで拒否した吾郎さんの我を貫き通すところ大好きだしそのままの吾郎さんでいてほしい。


ミュージカル『モーツァルト!』においては、ヴォルフガングは自分の才能という彼自身ですら制御しきれないほどの巨大な力に抗えずに死んでいったけれど、ベートーヴェンは自分の中にだけ鳴り響く音楽とだけ対峙することを止めて、周りの人たちは自分を支えてくれる楽器なのだと気付くことができた。同じ変人な天才音楽家の二人だけれど、ラストは全く対照的だった。晴れ晴れとした表情でタクトを振るベートーヴェンの姿と鳴り響く第九の大合唱に清々しい気持ちで劇場を後にしました。